2015年4月30日（日本では日付が変わって5月1日）、Stand by meなどのヒット曲で知られるBen E. King氏の逝報が届きました。

 

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筆者はまだ東北の震災の記憶も生々しかった去る2011年の秋、ベン E. キング氏と新宿にあるヒルトンホテルで一度お逢いする幸運に恵まれております。

某ラジオ番組のインタビューの為だったのですが、キングさんは文字通り破顔という言葉が相応しい、大きな笑顔で僕たちを迎えてくれました。

丁度東北の被災者の方々の為のチャリティ・アルバムに参加し、故坂本九さんのヒット曲「上を向いて歩こう」をカバーしたばかりで、そのプロモーションとブルーノート東京でソロライブを兼ねての来日だったと記憶しています。

 

 

非常に印象的な方であったせいか、記憶力が甚だ乏しい筆者にしては珍しく、聞いた内容をかなり細部にわたる迄憶えております。

ラジオDJという仕事柄、星の数ほどのアーティストの方々とお逢いしましたが、もしかしたら一番今でも内容を憶えているインタビューかもしれません。

その中でも特に印象に残っているのは彼が自身の代表曲とも言えるStand By Meについて語ってくれたところでした。

R&Bの名曲中の名曲、Stand by meは彼がかつて在籍していたドリフターズ時代（とはいってもベースが故いかりや長介氏の方では御座いません、念の為）から既にあたためていたとの事でした。

しかし結局在籍時にはレコーディングする機会がなかった、というよりマネージャーをはじめ、メンバーがあまり気乗りしていなかったというのが真実のようです。

つまりStand by meという名曲は危うく世の人々には知られず永遠にお蔵入りになるかもしれなかったのです。

その後ベンさんはドリフターズから独立してソロに転向。

そしてソロ・アルバムをレコーディングしますが、当然Stand by meはリストには入っておりません。

レコーディングは予想以上に順調に進み、収録予定曲全て録音完了。

その時点でスタジオの時間もまだ30分程度あり、加えてテープも最後の数分程度余っています。

スタジオもテープも非常に高価なのは言うまでもありません。

折角だから余ったスタジオ時間とテープを使ってついでにもう一曲だけ吹き込んでみよう、という話になりましたが、何しろ30分程度しか時間もないので、リハーサル一切なしのぶっつけ本番、いわゆるヘッド・アレンジメントで演らなければいけません……

そこでベンさんが思い出したのが、一旦お蔵入りになったオリジナル曲、Stand by me。

セッションミュージシャン達も曲を気に入ったので、コードだけ教え、あとはぶっつけ本番。

こうしてレコーディングされたのが、名曲Stand by me。

 

 

バックの演奏は殆どアドリブというのも驚きですね！

この話をベン E キングさんご本人から聞いて感動したのは言うまでもありません。

この曲はジョン・レノンもキャバーン時代からお得意のレパートリーで、実際ソロになってからあの有名なカバーをしていますね、とキング氏に言ったところ：

「ジョン・レノンみたいに私なんかより遥かに才能あるアーティストにカバーしてもらった事を誇りに思っているよ」と答えてくれました。

 

 

余りにも謙虚な言葉に筆者は思わず「しかし貴方もR & B史上最高の名曲の一つを作曲した方ではないですか！」と大声で言ってしまいました。

ベンさんは静かに笑って”Thank you”とだけ答えてくれたのです。

この時は他にもデビュー前の話やドリフターズ時代の話などいろいろしてくれましたが、それを全部書くと長くなってしまうので別の機会に譲る事に致します。

一通りの質問を終えて最後に撮影したのが冒頭の写真ですが、このときもベンさんご本人から握手を求めてきてくれたのです。

その時の手のひらの柔らかさと温かさは今もよく憶えております。

インタビューという人工的なセッティング環境下で短い時間しか一緒にいられませんでしたが、本当に素晴しいと心から感じられた人物だったと思います。

心よりご冥福をお祈りしてやみません。